グローバル化する世界で存在感を増すアジア 多面的アプローチでその現代的課題に取り組みます

個別奨励研究助成

当センターでは、センターに所属する若手を中心とした研究者の、先端的かつ独創的な研究の支援を目的とした研究助成制度を設けています。 これらの研究の成果については、当センター刊行物(『CAS News Letter』ないし『アジア・レビュー』)に掲載いたします。

■ 2024年度の採択研究:2件

研究者名:

石井梨紗子(所員 本学法学部准教授)

研究課題:

開発とビジネス:コロナ禍のフィリピンにおける地方政府と企業の協働の事例から

研究の目的:

 本研究は、フィリピンにおける地方政府と企業の協働を事例に、途上国の開発課題の解決に向けてビジネスがどのような役割を果たし得るかを検討するものである。当該研究は、申請者が継続的に行なってきた、フィリピン地方行政サービス提供における地方行政府と外部アクターとの協働に関する諸調査・研究の延長線上に位置付けられる。ここで対象とする「企業」には、企業体本体とそのCSR担当部署の他、企業がCSRの担い手として設立している財団等も含めるものとする。

 本奨励研究においては、特に、コロナ禍における地方政府と企業の協働の事例に焦点を当てる。2022年から2023年にかけて科研費を用いて実施した現地とのzoomインタビュー調査では、コロナをきっかけに、従来援助機関やNGOが担ってきた役割を、企業とそのCSR関連組織が代替する流れが加速化してきたことが確認された。また地方行政府が戦略的に企業との協働を模索する事例も目立つようになってきた。こうした協働関係は、コロナ禍の緊急支援に留まらず、ポスト・コロナの現在まで継承され、行政サービス提供のあり方を変化させてきている可能性がある。

 以上のような問題関心に基づき、本奨励研究は、コロナ禍で形成された地方政府と企業との協働関係が2024年現在の時点でどのように継承され、進展しているのか否か、その様相を明らかにすることを目的としている。そのために現地調査を実施し、既往調査で協働関係が確認されている事例の関係者へのインタビューを通じて協働関係の現状を把握する他、提供されたサービスの被益者へのインタビューも実施することで、協働の効果についても考察する。

研究者名:

西堀隆史(客員研究員)

研究課題:

タイ・バンコクの低所得者居住地区における小さな共有空間についての調査

研究の目的:

 アジア圏の各国における近年の都市空間の変容の中には環境的・歴史的・社会的背景から生まれた生活環境が残存する。そこにある「公私の境界が曖昧な小さい共有空間」や「建築物の構成、社会的背景の変化により生まれた公私の境界が曖昧な空間」などの地域的な特殊性のある空間を、位置的特性・用途・使用状況などから分類・分析していくことにより、都市生活における機能面の質の向上のみならず文化的な側面、元来の生活習慣との関連性を検証し、アジア圏の都市の街並み・生活環境の場所的特性の理解の一端としていくことを目的とする。

 タイにおける外部からの影響は近年顕著ではあるが、王朝の交代や占有国土の変化はあるものの欧米による植民地化はされておらず、元来の文化が残存している部分も多い。特に低所得者層が居住する地区には環境や社会的背景からきた特殊性のある生活空間が多く残存していることが確認できる。これらのタイの低所得者が多く居住する地区における、「公共地の一部が半閉鎖され、限定的な周辺の居住者により使用されている空間」、「長屋などの建物の連なりにより形成された限定的な人たちに属しているが、公共的にも使用されている空間」、「公道や線路などの公的な場所が、周辺集落により限定的に使用されている空間」、「公共地が私的な空間の一部のように使用されている空間」などの公共の場における境界は曖昧である。これらの通常は限定的な人たちにより使用されている小さい共有空間を、近年携わってきたバンコクの中心部に近く、広域に及ぶ低所得者層居住地区であるクロントイ地区を本申請における事例とし、建物配置、路地の形成、地区内における分布の調査、使用状況や用途の分類、住民への聞き取りなどを体系的に整理し、現地の歴史的・伝統的な建築物・集落の成り立ちとの関連性との分析も含め、タイの街並み・生活空間の構成の一側面を理解することに繋げていく。